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2009年08月09日
よくある話だが……飲みながら聞きながしてくれ その2
オレは研究に埋没していった。溢れてしまった現実を忘れようとした。
違う。心中密かにそれを取り戻そうと、もがいていた。
研究の方向性すら定まっていないのに、名をなして彼女を迎えに行けば、全てが元に戻ると妄想に近い願望を抱いていた。どれだけバカなんだって話だが、ある意味それが当時のオレを支えていたんだ。
しかし、それすら虚妄であるのを思い知る。
研究に大きな光明が見え始めると、そんな事はオレの頭からきれいさっぱり消えていた。そこにあったのは、知的好奇心を満たそうとする貪欲な渇望だった。
異常な集中力の漲る日々の中、胸の片隅でぼんやりとした自覚が芽生えていた。結局のところ、オレを支配しているのは、ただの欲望だと。
知的好奇心しかり色欲しかり。満たされるまで延々と求め続け、そしていつの間にか目的と方法がすり替わっている。それが分かっていても、止める事が出来ない。そこには相手を思いやる気持ち、まして愛なんてありはしない。相手どころか自分にたいしても、だ。
オレは彼女どころか自分自身も見失っていたのだ。多忙な日々と好奇心の奴隷と化していたオレは、もう止まる事が出来なくなっていた。
立ち止まる事が出来るのは、どういう状況だろうか。恋愛関係の停止が破局であるなら、知的好奇心の暴走の先に待っているのは何なんだろうか。
それは唐突だった。体が動かなくなった。研究も佳境に差し掛かろうとしていた時期の事だった。
肉体を凌駕した精神の負荷は、予想を遥かに超えていた。
背中に痛みが走り、10分と座っている事が出来ない。文字を追う事すら苦痛。そこに追い打ちを掛けるように襲ってくる焦り。それらは漠然とした恐怖に変わり、最後に虚無感へ辿り着いた。完全に悪性の循環にはまりつつあった。
その過程で医者にもかかった。フィジカルからメンタルまで思いつくまま、原因を究明しようともがいた。
得られたのは過労や鬱の疑いなど曖昧な結果だけで、根本的な解決への道筋は見えなかった。それでも、這いつくばるように答えを求めていたオレの原動力は、宙に浮きつつあった研究への執着、いや義務感だったように思う。これだけは形にしたいという悲鳴のような叫びのような、そんな感覚だった。皮肉なことに自身をここまで追い込んだ原因が、崖っ淵でオレを支えていたのだ。そして、ひょんな事から、オレはある鍼灸師に出会い、回復への手応えを得た。幸運としかいいようがなかった。
回復しつつあった体を騙しながら、オレは少しずつ研究環境に復帰していった、という訳だ。
投稿者 楓岱 : 2009年08月09日 17:13
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